安倍晋三首相が楽しみにしている「美容室でのヘアカット」は、法令違反の疑いがあるーー。そんなニュースが3月4日、日本経済新聞に報道され、美容師業界に動揺が広がっている。

安倍首相は妻の昭恵さんから勧められて、東京・渋谷の美容室に通っているようだが、美容師が男性の髪をカットするのは「違法」だというのだ。


根拠とされるのは、厚生省環境衛生局が1978年12月に各都道府県知事あてに出した「理容師法及び美容師法の運用について」という通知だ。
その「2の(2)」には「美容師の行うカッティングについて」という項目があり、こう書いてある。


<美容師が、コールドパーマネントウエーブ等の行為に伴う美容行為の一環として、カッティングを行うことは、その対象の性別の如何を問わず差し支えないこと。
また、女性に対するカッティングは、コールドパーマネントウエーブ等の行為との関連の有無にかかわらず行って差し支えないこと。
しかし、これ以外のカッティングは行ってはならないこと>


ちょっとわかり辛い書き方だが、要するに「美容師は、女性のカットは無条件にしていいが、男性については、ただカットだけをするのはいけない」ということだ。
これはいったい、どういうことなのか。厚生労働省にきいてみた。


「美容所での男性のヘアカットを一律で禁じているのではなく、『パーマ等の行為に伴う美容行為の一環として』なら認めています。
ただし、男性の『カットだけ』という行為は、本来的には理容所でおこなわれる行為と想定しており、美容所でおこなってよいという整理はしていません」(厚生労働省健康局生活衛生課)


つまり、ヘアカットと同時に、パーマや白髪染め、カラーリングなどの施術を行えば、問題ないというわけだ。
ただ、美容室でよくおこなわれている洗髪後の簡単なマッサージは、「美容行為の一環」とは認められないという。
そのため「マッサージつきだからカットだけでOK」とはならないのだ。


しかし、美容室でカットする男性もごく普通になってきた。
「違法」と言われても、ピンとこない現状がある。
実際、東京都港区のある美容室店長も「そんな規則は初耳。何かの間違いなのでは?」と驚きを隠さない。


「美容室業界では男性客が年々、増えていて、多いサロンでは3割くらいが男性客だと聞いています。
理容師さんは刈り上げや髪の毛の『面』を作る技術は高いと思います。
でも、最近の流行は、メンズも柔らかさや自然さを出すことです。
この技術は美容師のほうが高い。
ガールフレンドや奥様に勧められて、来店する男性客も多いんですよ」


美容室店長はこう口にする。
「開店にあたって、保健所から細かい指導が入りましたが、その際も男性のカットに関する注意はありませんでした。
前職の大手サロンでも、当たり前のように男性の『カットだけ』をしていましたよ・・・」


しかし、こうした声について、先の厚労省健康局生活衛生課の担当者は
「美容師が通知にそった運用をしていない実態があるならば、そもそも問題です。
保健所の指導が行き届いていない可能性があります」と話しているのだ。


では、保健所の指導はどうなっているのだろう。
東京都の保健所担当にたずねてみると、こんな答えが返ってきた。

「その通知は認識しています。
しかし、この通知の内容をもって、通知通りに指導をしているかと言われれば、現状はしておりません。
実態に照らすと、通知書通りの指導をすることは難しい現状があります。
地方自治体法では、国からの通知や通達を『技術的助言』という位置づけに置いており、どう対応するかは自治体の判断という運用が、浸透しているものと考えています」(東京都福祉保健局健康安全部)


自治体ごとに対応は異なる。
東京都とは対照的に、高知市保健所は積極的な指導をおこなっている。

「高知市では、国が定めている基準にしたがって、法令遵守をしていただきたいと県の美容師組合に要請したり、折にふれて指導をおこなっております。
市民の方から通報があったり、定期的な監視指導の際に『男性カット』のようなメニューがあれば、内容をチェックすることになります。
男性の美容室利用が増えているからといっても、国が実態をみて、通知上で容認しないかぎり、市として認めることはありません」(高知市保健所生活食品課)


どうやら美容室でヘアカットを望む男性は、近隣の自治体がどんな方針を取っているのか、確認しなければいけないようだ。
ある自治体関係者は「実態とかけ離れた厚労省の通知」が生き残っている背景について、次のように明かす。

「実際のところ、自治体の対応に影響を及ぼしているのは、理容師組合なのです。
1000円カットや美容室ブームで、理容室の客足は年々減っており、客の奪い合いが激化しています。
美容師がそもそも免許に含まれていない『カミソリ』を使う行為をしたら、さすがに問題ですが、髪を切るのは、理容師と美容師のどちらにも認められた技術です。
理容師業界のための通知であって、実態からはかけ離れているんですけどね」


安倍首相が美容室で、実際にどんなメニューを選んでいるのかは不明だ。
しかし、現状とかけ離れた「奇妙なルール」にメスを入れたら、「違法行為に加担しているのではないか」という疑いをかけられることもなく、正々堂々と美容院通いができるのではないか。

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