「厳しい状況で打開しなければならない時には、いろいろ議論が出てくる」

永田町の年内解散論を加速させたのが、谷垣禎一自民党幹事長のこの発言だ。
慎重な物言いで知られる谷垣氏だけに波紋を呼んだ。
内閣改造での「サプライズ人事」から2カ月、政治家として一度は死んだはずの谷垣氏が存在感を増している。


女性2閣僚の辞任で、政権運営に混乱をきたした10月下旬から、谷垣氏の動きはめまぐるしかった。
10月29日、安倍晋三首相と定例の会合を首相官邸で終えると、記者団の質問に答える形で年内解散論に理解を示す。
夜は数少ない側近、佐藤勉国対委員長のパーティーにかけつけて「佐藤先生のおかげで、安心して党の仕事に取り組める」と、とにかくヨイショ。
小渕優子前経産相の事務所に強制捜査が入った10月30日には「本人の取り組みを見守る段階」と小渕氏を擁護し、11月1日には広島市で大型補正予算の必要性を強調した。


自民党幹部は「内閣改造・党役員人事の目玉だった小渕氏が辞任したことで、谷垣氏の安定感が高く評価されている。
菅義偉官房長官も小渕氏の後任人事などで谷垣氏に相談している」と話す。


10月初めには党所属の衆院当選1回生との懇談会もスタートさせた。
119人の新人議員を5つのグループに分けて昼食をともにしながら意見交換。
加藤勝信官房副長官も官邸から呼んで同席させるなど、党関係者は「前任の石破茂氏のやり方が安倍首相の警戒感を強めたことを意識し、官邸との連携にも目配りしている」と感心する。


これまで疎かったネットにも進出。
「AskTanigaki(アスク・タニガキ)」と題したネット番組に隔週で出演してユーザーの質問に答えるという。


自民党総裁で首相になれなかった2人目の政治家として、退場するはずだった谷垣氏のヤル気。
永田町では「安倍後継への色気が出たのでは」との見方が出る。
総裁選への挑戦ではなく、首相が健康問題などで中途辞任を強いられた場合、有力な「ポスト安倍」候補になる、との見立てだ。


だが、谷垣氏は野党の総裁になった当時も「党内の空気を吸収する」と意気込みながらも尻すぼみで、結局は数人の側近たちとだけ意見交換して自滅した過去がある。
69歳にして“君子豹変”できるか、それとも一過性で終わるのか――。