第146回芥川賞を受賞しながら、不機嫌な会見をした田中慎弥氏(39)の姿は記憶に新しいところだ。その受賞作「共喰い」の発行部数が10万部に達したことが分かった。

純文学としては異例の部数で、発行元の集英社はウハウハだ。

集英社によると、初版は3万5000部だったが、予約が順調なことから、1月19日に1万5000部の増刷を決定。早めに売り場に並んだ東京都内の一部大型書店の売り上げも好調だったことから、さらに5万部を追加し、最終的に計10万部に達したという。

田中氏は07、08、09、11年と4度も芥川賞候補に上りながらも落選した苦労人。その一方で05年に新潮新人賞、08年には川端康成文学賞、三島由紀夫賞を受賞した“陰の実力派”だった。


山口県立下関中央工業高校卒業以降、アルバイトも含め、一度も職業に就いたことがないという異色の経歴をもつ。

「ばかみたいな作品ばかり」と発言した芥川賞選考委員の石原慎太郎都知事に対し、受賞会見で「4回も落っことされて、断っておくのが礼儀。断ったりして気の弱い委員の方が倒れたりしたら、都政が混乱するので。都知事閣下と東京都民各位のために、もらっといてやる」と皮肉った。

石原都知事は今回限りで選考委員を辞める意向を明らかにしたが、「読み物としては読めたけど、ある水準に達していない。○×△で△を付けた」と田中氏の作品を評した。田中氏は「石原慎太郎に評価されたくない。どうせなら×をつけてほしかった」とやり返して、石原都知事とのバトルが話題になっていた。

結果的に、この不機嫌会見が功を奏して、世の注目を集めて発行部数がグーンと伸びた田中氏。平凡な会見をしていたら、メディアで大きく取り上げられることもなく、10万部もの部数には到底届かなかったはずだ。
これで、印税もガッポリ。集英社も田中氏もニンマリだ。

これまで、芥川賞に縁がなかった田中氏だが、これでその苦労も報われたということか…。