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Wii U ベーシックセット
任天堂が昨年12月8日、満を持して発売した新型テレビゲーム機「Wii U(ウィー・ユー)」の売れ行きが、たった3週間で失速。
おまけに主力の携帯型ゲーム機「ニンテンドー3DS」も振るわず、同社は1月30日、13年3月期連結決算の業績予想を下方修正し、営業損益が当初予想の200億円の黒字から200億円の赤字(前期は373億円の赤字)になると発表した。
営業赤字は2期連続。

大阪市内で記者会見した岩田聡社長は、「有力ソフトの投入、携帯型ゲーム機とテレビゲーム機の開発部門統合による開発効率向上などにより、14年3月期は1000億円以上の営業黒字を目指す」と強調した。

だが、エースの3DSも期待のルーキー・Wii Uも販売不振は深刻。
Wii Uに至っては、岩田社長が「年明け以降、勢いがない」と、思わず漏らすありさま。
ゲームアナリストは「それで1000億円以上の営業黒字なんて、寝言としか思えない」と苦虫を噛み潰している。

「背水の陣」「V字回復の切り札」として投入したWii Uが、「新発売のゲーム機を求めて開店前から行列」と報じられ、任天堂社内がWii U人気に酔ったのは、たった3週間だった。

ゲーム産業リサーチのメディアクリエイトによると、最初の3週間はWii(旧型機)発売時と並ぶ勢いだったが、4週目に早くも息切れし、5週目はWiiと22万台以上の差が開いた。
Wiiは6週目以降も上昇を続けたが、Wii Uは6週目から下降したという。

ゲーム関係者は「3週間のWii U人気は任天堂ファンと初物好きユーザによるもの。
それでさばけたのが50万台強で、その後が続かなかった。
つまり、一般のゲームユーザには、ほとんど魅力もインパクトもなかった証し」と話している。



ところが、岩田社長の認識は違うようだ。

昨年12月5日、発売前の説明会で岩田社長は「新たな娯楽体験を提供できる革新的なテレビゲーム機。お客様に必ず満足していただけるはず」と、胸を張った。

Wii Uは、06年に発売して大ヒットしたWiiの後継機。
タッチパネル式のモニタをコントローラに装備したのが特徴で、テレビに接続しなくても単独で遊べるのがミソ。
インターネットに接続してゲームの攻略法や質問をサイトに投稿できるSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)機能「ミーバース」も初搭載、これまで弱いとされていた交流機能も強化した。

それが先月30日の記者会見では「Wii Uは既存のゲーム機に比べ、革新的な面白さが伝わりにくい」と、販売不振の要因を釈明した。
見方によれば、Wii Uは「進歩的すぎた欠陥品」だったと自ら認めたことになる。

それはさておき、岩田社長は、自信作の想定外の不振は「Wii Uの革新的な面白さがユーザに伝わっていない」のが要因と考え、PR不足に苛立ちを募らせているようだ。

岩田社長は先月中旬、日本経済新聞の取材に対して、次のように答えている(以下、要点のみ)。


・人は革新性に後から気づくものだ。
携帯型ゲーム機で初めて2画面を装備したニンテンドーDSも、最初の評価は散々だった。
DSは勝ち目がないと誰もが思った。だがDS Lite(DSの上位機)によって、そうした評価が覆った。
すべて後から「ああ、そうだったのか」と、わかってもらえるものだ。

・私は、家庭の中でのテレビゲーム機の在り方を変えようとWiiを開発した。
このWiiを、もっと高い次元で充実させたのがWii Uだ。

・Wiiのチャレンジは「リビングルームへ、もう一度家族全員が集まって遊ぼう」という「お茶の間復権」だった。
リビングルームで家族の交流を促す「ソーシャルゲーム機」がWiiの目的だった。
これに見事成功した。

・ところが、ゲームでテレビを占有することに不満を抱える家族もいる。
ゲームをしない人にとって、ゲームをする人はテレビの邪魔だから。
ならば、家族がテレビを見たい時は、リビングに残ったままゲームの続きをコントローラ画面で楽しめるようにすれば、この不満を解決できる。それがWii Uのコンセプトだ。

・テレビとコントローラ画面。
2つの目をユーザに提供することで、まったく新しいゲームを体験できる。
それがWii Uの革新性だ。

岩田社長はWii Uに込めた「こうしたコンセプトと革新性を、ユーザが理解できていない。
だから売れない」と、思っているようだ。

これに対して、ゲームアナリストは「革新性を理解できないユーザが悪いと言わんばかりの自己陶酔的な販売不振要因分析であり、過去の成功体験にも依り過ぎている。
視野狭窄に陥った岩田さんには、ゲーム市場の潮流が見えていないようだ」と批判している。


任天堂は、テレビゲーム機という盤石のプラットホーム戦略でゲーム市場のイノベーションを先導してきたが、市場環境の変化が盤石だったはずのプラットホーム戦略をガラパゴス化させ、同社のビジネスモデルを環境変化に追随できなくさせているようだ。

ゲームの市場環境は、この5年間で激変した。
テレビゲーム機は1983年の「ファミコン」登場以来、一定のパターンで成長してきた。
ゲーム各社は5~6年に1度の頻度で新型モデルを投入し、ユーザの支持を得られたベンダが高いシェアを獲得できた。

だがそれは04年までの市場環境だった。
それ以降、Wii(任天堂)、プレイステーション3(ソニー・コンピュータエンタテインメント)、Xbox360(マイクロソフト)が3つ巴のシェア争いを展開している間に、市場環境が激変した。

変化の引き金になったのが、SNSのおまけのようなかたちで始まった、ソーシャルゲームの台頭とスマホの普及だった。

これらはハードを問わない汎用的なプラットホームであるため、ゲーム以外にも多様なアプリやサービスを利用できる。
しかもゲームユーザにすれば、どこでも、いつでもスマホで安くゲームができる時代になったわけだ。
テレビのある場所でしか遊べない不便さから解放されたといえる。



一方、任天堂はクローズドなプラットホーム戦略に固執してきた。
04年まではそれが同社の強みだったが、ここ数年では弱みに変化した。
同社はそれに気が付かなかった。

ハードとソフトの両方を社内で磨き上げ、巧みにすり合わせた高品質のゲームを、時間をかけて完成させる。
それがブランドへの信頼性を高めると同時に、他社が容易に参入できないプラットホームの城壁になっていた。
ソフトも高値で飛ぶように売れた。

SNSは、その対極的なオープン型プラットホームといえる。
誰でも容易に参入でき、極めて安い値段でゲームが楽しめる。
当初は「安かろう、悪かろう」のソフトが氾濫していたが、技術の進化と競争の中で低品質のソフトは淘汰され、今までの常識にとらわれない斬新なソフトも生まれている。
おのずとヒット作も続出している。

ゲーム業界では、プラットホームは量を絞ってピンポイント的に「質を維持する」よりも、品質にばらつきがあっても「量を抱える」ほうが、ユーザの多様なニーズに応えられるとの考え方にシフトしてきている。

こんな時代になってくると、任天堂のゲームソフトは、ガラパゴス島のソフト以外の何物でもない。

任天堂ファンを自認するハイテクニュースサイト「エンガゼット」のティム・スティーブンス編集長が、「マリオ以外に野心的なソフトがなく、取り残された気分だ」と嘆くのもうなずける。


任天堂の戦略的な誤りが、もう1つある。それは、ゲームソフトを単品売りするだけで、「サービス化」していないことだ。

ゲームソフトに限らず一般消費者向けの情報商材は、その商材データを継続的に利用し、さらにデータを加工して他の商材に再利用できる仕組みが必要だ。
ところが任天堂はそうしていない。ゲームソフトは「再利用する経営資源」ではなく、「一回出荷したらそれでおしまいの、売り切りの消費財」としか考えていないからだといわれている。

同社が歯牙にもかけなかったサービス化を行っているのが、SNSやスマホのベンダだ。

例えば、健康関連ではスマホを使って運動データをネット上で管理する「RunKeeper」、NHKの健康番組『ためしてガッテン』が提供している体重を管理する「ガッテンダイエットクラブ」などがある。
これはほんの一例。
無料や安い料金で利用できるさまざまなサービスが、SNSやスマホでは続々と誕生している。

一度はDSで『脳トレ』『えいご漬け』など生活密着型サービスのブームを起こし、ゲームの新しいユーザ層を開拓した任天堂だが、今は任天堂のユーザがSNSやスマホの草刈り場になりつつある。

70~80年代に中小企業のIT化を先導したオフコンは、90年代に入ると、専用機であるがゆえに汎用機のパソコンに駆逐された。この状況が、現在のゲーム市場で進行中といえる。

一般ユーザが、利便性の高い汎用プラットホームを安価に入手できるようになった現在、「ゲーム」という特定機能のプラットホームしか持たないベンダは、どう見ても競争上有利な立場にあるとはいえない。

ゲームアナリストは「任天堂は、もはやゲーム業界を代表するベンダではなくなりつつある。
それどころか、今後はニッチなゲームニーズを満たすためのベンダに転落する可能性すらある」と懸念している。

それでも岩田社長は「業績不振は一過性のもの。専用機だから、SNSやスマホにない高品質でスマートで、家族で楽しめる健全なゲームを提供できる。
これをお客様が理解するようになったら業績は上向く」と、クローズドなプラットホーム戦略の優位性を強調している。